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きなピッチャーが登板するかもしれないということです。昨日の晩にあれだけ一所懸命に素振りをしたのだからバットを振ってヒットを打つんだと、その一点にこだわっていたら、プロでは生き延びることができないということです。
−中略−
山内さんと出会うまで私にはこれといって目標や理想があったわけではありません。ただゲームに出たい、それが一番でした。この年のシーズンは山内さんが4番、私が5番という打順で過ぎていきました。シーズン終了後の成績は、山内さんは当然のように3割を打ち、ホームランは21本でした。私は2割7分ちょっとの打率でしたが、ホームランは偶然ですが山内さんと同じ21本でした。私にとっては大変うれしい出来事です。あの大打者山内さんと同じ数のホームランを打てたからです。そこで、秋季練習の時に何の気なしに山内さんのそばへ行きまして、私も2000本安打打てますか、2000試合出られますか、と聞きました。普通、先輩は後輩にそのような問いかけをされれば、おまえも頑張ればできるよと言ってくれるもので、私もそれを期待し、励みにしようという気持ちがありました。ところがです、山内さんはたった一言「おまえじゃ無理だ」とおっしゃったんです。私は一瞬頭の中が空白になりましたが、山内さんはあまりにも雲の上の人ですから、文句が言えないわけです。
−中略−
昭和45・46年には、また大きな出会いがありました。先年ヤクルトの監督をなさっていた関根潤三さんと、現在ロッテのゼネラルマネージャーをなさっている広岡達朗さんです。先程も申し上げましたが、昭和44年のオフには選手の人集めはもう終わっている状況でした。根本さんは43・44年はキャンプからシーズン終了まで、ひたすら基礎体力の養成を主眼においた練習を行いました。私個人は、ランニングを30分も40分もしてからゲームに望むのはよい結果を残すためには逆効果ではないかと考え、根本さんに聞きに行きました。ところが、根本さんはおっしゃいました。このチームに一番欠けているのは基礎体力だ。技術をいくら教えても基礎体力の無いところでは成果は出ないと。そうして43・44年は過ぎ、次に根本さんが考えたのが理論武装だったわけです。野球の基礎理論をチームに浸透させるには誰が良いかを考え、バッティングは関根さん、守備は広岡さん、そして走塁担当は早稲田で広岡さんと三遊間を組んでいた小森さんという方を招いたのです。
初めて関根さんにお会いしたのは、合宿所に来られたときです。「衣笠です。よろしくお願いします」と言うと、「あっそうか、キヌ、頑張ろうね」と、ヤクルト監督当時のあの笑顔でニコッと笑ってくれて、私は、ああ侵しそうな人でラッキーだなと思いました。次の瞬間です。「ところでキヌ、お前、バッティングで何に悩んでいるんだ」と言われました。
何に悩んでいるのかと言われても、範囲が広すぎました。例えば、グリップの位置をどう思っているのかとか、スタンスの広さはどうかということを具体的に聞かれれば、これは非常に答えやすいわけです。しかしバッティング全般に関して「何に悩んでいる」と問われると、バッターが常に欲しているのはプロセスではなく結果ですから、やはり最良のポイントで打つことを心掛けるわけです。私も「常にいいポイントで打つことです」と答えました。すると関根さんは「そうだろうな。お前の頭ではその程度だと思った」といきなり言いました。いきなりガーンとやられてしまいました。
関根さんは、自分のフォームを頭の中で10枚に分解するように指示し、ボールとバットのインパクトの瞬間は何枚目かということを聞きました。私は大体6枚目ぐらいだと答えました。関根さんは6枚目が狂っている時にどこをチェックするかと質問され、私は5枚目をチェックすると答えました。4枚目の時は3枚目をチェック…と、考えていくと関根さんはバッティングで一番大事にしなければならないのは、結局のところ構えだというお話しをされました。1番最初が狂っていて2番目以下がどうして正確になるかということです。100回構えて100回とも同じ位置、同じ感覚でボールに向かえる姿勢をまず作れという趣旨のお話しでした。私は選手時代の関根さんのことを覚えていますが、たいへんに構えを大事になさった方です。
1番目が正確ならば2番目も正確になる2番目が

 

 

 

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